平成31年度 税制改正にて新たに創設された納税猶予制度です。

今までは会社の株式の贈与や相続、農地の贈与や相続時の納税猶予制度しかありませんでしたが、平成31年1月1日から平成40年12月31日までの間に行った個人の事業用資産の贈与や相続にも適用されることになりました。

事業用資産を相続または贈与を受ける相続人や受贈者は、認定支援機関が所見を記載した承継計画に記載された後継者で、都道府県庁の認定を受けた者をいいます。

事業用資産は、被相続人または贈与人が事業の用に供していた土地(面積400㎡までの部分のみ)、建物(床面積800㎡までの部分のみ)、建物以外の減価償却資産で、青色申告書に添付されている貸借対照表に計上されているものを言います。ただし、不動産貸付業は対象外です。

うまく使えば、多額の相続税や贈与税で事業承継を断念するケースも減るのではないでしょうか。

しかし、実際に利用するには注意点も必要です。

たとえば、納税猶予制度を利用する場合は、事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例制度(相続)が利用できないという点も注意すべき事項です。

小規模宅地等の特例を利用して納税を行うのと、小規模宅地等の特例の減額制度を利用しないで納税猶予を利用するのと、どちらがベストなのか良く考える必要があります。

小規模宅地等の特例の減額制度が使えないということは、猶予される納税額が減額制度を利用するより増えるということなので、万が一要件から外れて納税することになった際の影響も考慮しなければなりません。

贈与税の納税猶予については、納税猶予の打ち切り時に精算課税制度が利用できるため2500万の非課税範囲内で収まるのであれば、贈与時には利用を考えても良いかもしれません。

このように、実際に利用する際には、十分な計画のもと実行にうつすことが重要です。

前回の続きです。

今回の税制改正大綱にて「配偶者居住権」の評価方法が記されました。

            

<居住用建物の評価>

(1)配偶者居住権の評価方法

建物の時価 - 建物の時価×A

  A=(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

  ※1 残存耐用年数・・・所得税法の耐用年数(住宅用)×1.5-居住建物の築後経過年数

  ※2 存続年数・・・次のケースに応じて、それぞれの年数

  1. 配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間である場合…配偶者の平均余命年数
  2. 1以外…遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数
    (配偶者の平均余命年数を上限とする)     

                    

(2)所有権の評価方法

建物の時価 - 配偶者居住権の価額

      

<居住用建物の土地の評価>

(1)配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利

土地等の時価 - 土地等の時価×続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

(2)居住建物の敷地の所有権等

土地等の時価 - 敷地の利用に関する権利の価額

平成30年7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、同年7月13日に公布されました。   

 今回の改正内容は下記。

  1. 配偶者の居住権を保護するための方策
  2. 遺産分割に関する見直し
  3. 遺言制度に関する見直し
  4. 遺留分制度に関する見直し
  5. 相続の効力に関する見直し
  6. 相続人以外の貢献を考慮するための方策

施行期日は、内容により決められており、上記(1)の場合は、「公布の日から2年を超えない範囲で政令で定める日」となっています。

つまり、平成30年7月13日の公布の日から2年なので、平成32年7月13日までの間に施行されるということになります。

さて、今回の税制改正大綱にて「配偶者居住権」の評価方法が記されました。

評価方法のお話の前に、今回は、そもそも「配偶者居住権」とは何かを軽くご説明します。

「配偶者居住権」は2つあります。

<配偶者居住権 新民法1028条~1036条>

今までは、配偶者が居住建物を取得すると、それだけで法定相続分を超えてしまい、現預金を相続することが出来ず、その後の生活に不安が生じるというケースがありました。

そこで、配偶者の居住建物を、居住する権利である「配偶者居住権」と、その権利をの制約を受ける「所有権」とに分離して、配偶者が「配偶者居住権」を相続することで、他の現預金の相続を可能にするため今回の改正がありました。

「配偶者居住権」は登記をすることができます。

配偶者は、居住用建物の所有者に「配偶者居住権」の設定登記の手続きをするように請求できます。

<配偶者短期居住権 新民法1037条~1041条>

今までは、配偶者が被相続人から無償で居住していた場合(使用貸借)は、遺産分割協議の成立までの間は住み続けることができるという判例の取り扱いが確立されています。

しかし、このケースだと、この居住用建物が第三者に遺贈されていた場合は、配偶者は相続発生日より居住権を失ってしまう。

そのため、民法改正により、配偶者は最低でも6ヶ月は住み続ける事が出来る制度が創設されました。

   

空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例が、老人ホーム等に入所したことにより居住の用に供されなくなった家屋及びその敷地の用に供されていた土地等は、一定の要件を満たす場合に限り、3,000万の特別控除の適用が可能となります。

        

現行制度は、平成31年12月31日まででしたが、4年延長されることになりました。

改正は、平成31年4月1日以後に行う譲渡から適用です。

               

現行制度の要件に加え、下記要件が追加となります。

(1)被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続の開始直前まで老人ホーム等に入所していたこと。

                          

(2)被相続人が老人ホーム等に入所した時から相続の開始の直前まで、その家屋について、その者による一定の使用がなされ、かつ、事業の用、貸付けの用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。                             

                   

<現行制度のおさらい>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡し、一定の要件に該当するときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。

                    

<一定の要件>

1) 相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋・土地等であること。  

2) 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。

3) 区分所有建物登記がされている建物でないこと。

4) 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

5) 売った人が、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を取得したこと。

6) 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

7) 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。

8) 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

9) 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

10) 売却代金が1億円以下であること。 

11) 売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

12) 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。

13) 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。(特別の関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。)                                  

平成29年の税制改正にて、タワーマンションの固定資産税の改正がありました。

「タワマン節税」と言われているタワーマンション購入による節税対策。

 

これは、相続税だけでなく、固定資産税、不動産取得税も節税になるという意味なのですが、今回、改正が入ったのは地方税である固定資産税。

税率は変わりなく、固定資産税評価額の計算方法が変わったので、固定資産税評価額を元に計算する不動産取得税にも影響が及びます。

 

では、相続税は?

というと、実は変わりません。

相続税の計算は、財産基本通達 に基づいて計算するのですが、その計算方法は下記となっています。(家屋のみの説明です)

 

(区分所有財産)

3 区分所有に係る財産の各部分の価額は、この通達の定めによって評価したその財産の価額を基とし、各部分の使用収益等の状況を勘案して計算した各部分に対応する価額によって評価する。

 

「使用収益等の状況を勘案」 とありますが、マンションの場合、所有者の占有面積で按分します。

つまり、

一棟の固定資産税評価額×占有面積=所有者の固定資産税評価額(A)

となります。

 

(家屋の評価)

89 家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。(昭41直資3-19・平3課評2-4外・平16課評2-7外改正)

 

所有者の占有面積で按分した上記Aの固定資産税評価額×1.0=相続税評価額

 

相続税は、あくまでも一棟の固定資産税評価額を占有面積で按分して、所有部分の固定資産税評価額を計算し、(倍率1.0を乗じて)相続税評価額とします。

つまり、一棟当たりの固定資産税評価額が変わらない今回の改正は、相続税の計算には影響しないということになります。

 

今回の固定資産税の改正内容をおさらい。

 

<対象となるタワーマンション>

1.平成29年1月2日以後に新築

2.高さ60m超

3.平成29年4月1日前に最初の売買契約が締結された人の居住用占有部分を有するものを除く

 

<改正された計算方法>

マンション一棟の固定資産税評価額は変わらず、階数ごとに占有床面積を調整して、階数が上がるほど固定資産税評価額が高くなるように改正。

具体的に見ていきます。

 

<改正前の固定資産税の計算>

一棟の固定資産税評価額×占有床面積=その所有者の固定資産税評価額(A)

A×1.4%=固定資産税(都市計画税除く )

 

<改正後の固定資産税の計算>

一棟の固定資産税評価額×調整後の占有床面積=固定資産税評価額(a)

a×1.4%=固定資産税(都市計画税除く )

 

要は床面積を修正することでフロアーごとの固定資産税評価額を変えるということです。

ということで、タワーマンションを利用した相続税の節税は、まだ有効だということになります。

しかし、当ブログでも以前書きましたが、度を過ぎた節税対策は、「財産基本通達6項」の適用をする旨の国税庁の見解を示しているので注意が必要です。

 

(この通達の定めにより難い場合の評価)

6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

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