預貯金の分割方法の取り扱いの変更
2017年2月10日 カテゴリ: 相続
今まで相続財産の中に預貯金や債権、債務があった場合は、相続の発生により各相続人に当然に分割承継されるため、遺産分割の対象とならず、例外的に、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とするというのが今までの実務上の取り扱いでした。
つまり、遺産分割を待たずに預貯金は法定相続分で当然に分割が可能でした。
その根拠は、民法にあります。(民法898条、899条、427条参照)
預貯金は、可分債権に含まれます。
可分債権とは、性質上分割が可能であり、分割給付を目的とする債権を意味します。
例えば、売買代金や預金などの金銭債権は可分債権です。
金融機関からの借入金は、可分債務に含まれます。
可分債務とは、性質上分割が可能であり、分割給付を目的とする債務を意味します。
分けることの出来る「可分債権」「可分債務」は、相続人の意思表示がなければ、当然に法定相続分で相続することになるのです。
例外的に、相続人全員の合意があれば、預貯金や借入金も法定相続分以外での分割が可能ですが、相続人の1人でも遺産分割の対象とすることに反対する人がいると、法定相続分で分割することになります。
しかし、平成28年12月19日、最高裁の判例により、この従前の取り扱いとは違う決定がされました。
「遺産相続の際に、被相続人名義の預貯金が遺産分割の対象となる決定」がされたのです。
この判例では、被相続人の生前に多額の生前贈与(5500万円)を受けていた事例で、
他の相続人が、この生前贈与も考慮して(特別受益として)、遺産分割の対象とすべきとして審判を申し立てたのです。
今までは、生前に預貯金等の生前贈与を受けている相続人が、預貯金等を遺産分割の対象とすることに反対すれば、特別受益として生前贈与された預貯金等を遺産分割の対象とする(持ち戻す)ことは出来ませんでした。
しかし、今後はこの判例により、遺産分割の対象としなければならないケースが増える事でしょう。
今回の判例は、「可分債権一般についてまで遺産分割の対象となる」と判断したものではありませんので、被相続人の相続財産や相続人等の状況によって個々に判断されるものでしょう。
いずれにしても、遺産分割の前に預貯金等を法定相続分で払い戻すことは法律上可能ですが、実務的に金融機関では、「遺産分割の成立」「相続人全員の同意」がなければ払戻しには応じません。もっとも、金融機関によっては、相続人の生活資金等の事情を考慮して、払い戻しが可能なケースもあるようですが・・
<参考>
第898条
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。